バルトーク晩年の滝 [まぶさび詩]
N響が昨年末の公演でとりあげたバルトークの「管弦楽のための交響曲」がTVから流れてきた。
これを聴くと、しばらくは、何にも考えられなくなる。大学に入りたてのころ、ジョージ・セル指揮クリーブランド交響楽団によるLPを手に入れて以来、ぼくのもっとも好きな曲のひとつだ。年のせいか、いよいよ好きになっていく。バルトークは、ナチスに占領された故国を離れ、アメリカにいた。おそらくは、二度とは帰れない故国への望郷の念、にもかかわらず音楽家としての生を肯定する歓びのようなものが、中身はずいぶん違うにせよ、ぼくのような永遠の故郷喪失者の胸には、強くひびくのだ。
特に、まん中の第3楽章「悲歌」の大きな高鳴りをおさえきれないかのようなメロディーは、この曲の白眉で、ぼくにとって「管弦楽のための交響曲」といえば、まずこのメロディーが鳴りひびく。手もとにある、ブーレーズ指揮シカゴ交響楽団によるCDで計算してみると、全体のちょうどまん中あたりで、このメロディーは奏でられる。おそるべき構成のマニエリストでもあったバルトークのことだから、彼の頭の中でも、このメロディーは、いろんな意味でど真ん中に置かれていたのでは、と、手前勝手に想像してみる。
望郷に、虹ちぎれ、音にじむ
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